“Wows” 〜大きな瞳の邪魔はできない〜

“Wows” 〜大きな瞳の邪魔はできない〜

Instagramにコントロールされていた。「いいね」の数とか、フォロワーの数とか、そんなどうでもいいことを気にし出していた自分に気付いて、はっとした。怖くなって、このままではいけないと思った。じゃあアカウントを消せばいいのかというと、それは根本的な解決になっていない。ではどうするか。

そこで、向き合い方を考えてみた。どうせなら、生活を豊かにできる使い方がいい。そこで1日1つ、「おぉ」と思ったことをストーリーに投稿するというノルマを自分に課してみることにした。最初のうちは、自分から探しにいかないと見つからない。やっと投稿したのは、綺麗にピンクに塗られた消火栓。1日探して、結局家の前にあったそれって、なんか肩透かしだったけどまぁよし。また明日も、何か面白いものが見つかるかも知れない。そう思うとなんだか楽しくなってきて、普段なら素通りしていた落書きや夕焼け、ガラスの割れたバス停の広告までも「おぉ」と思えてきた。なんなら段々と「おぉー」とか「おぉ!!!」になってきているのもわかった。毎日にそれが溢れてきて、Instagramそのものを見なくなっていた。私は世界の「おぉ!」を探さないといけないから!スマホを見ている場合ではないのだ!

今日もそんな調子で、電車に乗っていた。ロサンゼルスの地下鉄は、本当に汚い。車中心の街で電車や公共交通機関を使うのは、自分も含めて低所得者が多い。最近は観光客も戻ってきて少しずつ安全さを取り戻しているが、ホームレスは電車内を寝床としている。だからか分からないが、基本的に暗い雰囲気で皆うつむき気味である。

午前10:30頃、人はまばらで席は空いている。席に座ると目の前に犬とおばさんが見えた。彼女は清潔な身なりで、犬は小さいながらもしゃんと床に座っていた。あまりにしっかりとしてるから、ぬいぐるみかと疑ってしまう程だった。でも次の駅で人がたくさん入ってくると、その小さな彼はそわそわしているのが隠せていなかった。大きな瞳できょろきょろと周りを見て、時々にっこり笑う。彼に見える世界は大きくて、動きと色、匂いと音に彩られていたに違いない。おもちゃ屋さんに来た子供のように、きらきらした瞳で乗客に笑いかけていた。

そんな彼に私は釘付けになっていて、なんて綺麗なんだと思っている間に座ってきてた隣のお爺さんと、その隣の若い女性に気付かなかった。ふと横の二人を見ると、二人とも同じように彼を見て笑顔が溢れていた。3人で目が合うと、なんだか秘密の言語をお互い話しているようでクスッと笑う。お爺さんが彼に手を振ると、その彼も前の小さな茶色い手をこちらに振り返してくれた。私たち3人はまた顔を見合わせて、今度は大きな声で笑った。まるで長いこと彼を知っていて、彼の生まれて初めての鳴き声を聞いて、彼にお腹いっぱいご飯をあげたような感じがした。きっとそれは、隣の二人もそうだったんじゃないか。彼のご主人が優しく彼を撫でてキスをする。彼はとっても幸せそうで、ふかふかの布団に包まれた様に気持ちよさそうだった。

それからは、彼も含めてみんなが自分のペースにゆっくりと戻っていった。周りは携帯を見ていて、彼は相変わらず世界に感嘆している。

小さな彼のまっすぐで大きな瞳が、私たちを一瞬でも繋いでくれたのが本当にありがたかった。めちゃくちゃに奇跡だと思った。Instagramも誰も、この奇跡を邪魔できないのが「やった!」と思って、目一杯の笑顔で彼にお礼を言って電車を出た。

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