Be In The Moment〜大変そうだけど、ラクだった。

子供の頃から、お楽しみはとっておく癖があった。

夏休みの宿題は7月中に終わらせていた。でもそれは真面目だからっていうよりも、8月というお楽しみを存分に楽しみたかったから。朝起きてまず先に、楽しみな授業を考えていた(大体道徳とか、頭も身体も使わないやつ)。食事で最後の一口は、ご飯じゃなくてお肉がいいのは今も変わらない。

常に先を見て、そのお楽しみを糧に毎日過ごすというなんとも子供らしからぬ子供だった。親がかわいそうだ。

それでも、先のことなんてすぐに変わってしまう。

コロナが私たちによーく、痛い程教えてくれた。すぐに来ると思っていた、お楽しみのライブイベントも中止になり、週末に行こうと思っていたカフェみたいな、日常の小さいお楽しみですらお預けになった。

そして思ってみれば、ダンスをしている時もそうだった。次に来るとりたい音を意識する余り、実際の音楽よりも早い、ちぐはぐな踊りをしていた。

今までどれだけ自分が、未来にばかり目を向けてきたのか初めて意識したのはこの時だった。長い前髪をやっと切った時みたいに、世界が変わって見え始めた。

そこで思い出したのが、ダンスエンターテイナー、仲宗根梨乃さんがよくかけてくれていた言葉だった。

「Be in the moment(その瞬間に入れ)!」

はっとした。こういうことかもしれない、と。

今、息を吸って、吐いているこの瞬間はもうなくて、その瞬間に問題なんて何もないってこと。

じゃあ、どうして先のことを考えて心配するんだろう。そんなことに意味なんて全くないのに。先のことは幻想だって、コロナが教えてくれたじゃないか。

2021年8月頃、この学びを、作品にしたいと強く思った。でも具体的なアイディアが浮かばず、とりあえず具現化したかった”Wear The Music”プロジェクト(詳細は前回の記事をご覧下さい)を進めた。そこからかなり経った2022年年始に、”Be In the Moment”プロジェクトに取り掛かった。

「その瞬間を生きる」という考えは、夜の街を連想させた。それは初めて飲んだお酒なのか、外国の人たちと渋谷で朝まで踊ったクラブなのか、バイト先の憧れの先輩との飲み会なのか、終電を忘れることなのか、はっきりとはわからない。でも、表現したい空気感はそこにあったのは分かっていた。

そこからダンスビデオ、既存のイメージに合うプレイリスト(名前は”Night Lights”で登録してあった)、そしてそのプレイリストからの楽曲ミックスをQRコードにしてデザインに取り込んだ。

デザインは60〜70年代でよく見られた、バンドのコンサートポスターがモチーフ。どうせポスターを作るならということで、未来の自分達のイベントポスターとして完成させた(このTシャツもチケットになるので、しっかりとっておいて欲しい)。

このプロジェクトを制作していく中で、その瞬間に生きることがゆっくりと習慣になっていったのは自分でも驚いた。子供の頃からの癖がゆっくり姿を消していった。和紙が水に溶けていくように、するするなくなった。

今でもまだ、コロナ以前の生活が戻ってきたとは決して言えない。し、それを望んでいるかすらも正直微妙だ。だって今の方が断然生きていてラクだからだ。

今は、朝起きてまず深呼吸をする。今朝は夏の匂いがした。食事の最後の一口なんてどうでもいい。そして8月の夏休みを楽しみにするどころか、その瞬間を噛み締めたら休みという概念が薄くなった。だって常に、そんなに辛くないから。

https://www.youtube.com/watch?v=NhVJkwc9vu4

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